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音楽が子どもたちに与えるもの 千葉 あや


千葉 あや

音楽に限らず、芸術作品と呼ばれるものは全て、相手があって初めて成立するものです。一見すると聴衆を無視して好き勝手やっているような作品も、まったく受け手が皆無であれば、演奏する意味はないでしょう。これは、文学、美術など創作品全てに共通して言えることですね。

しかし、我々音楽家は、常に聴衆に何か具体的な「これ」というものを与えようとしているかと言うと、そうではないと思います。聞き手に渡った瞬間、音楽は作り手の意図から離れ、一人歩きします。マタニティミュージックやヒーリングミュージックなど、療法的音楽もよく引き合いに出されますが、「ある人にとっての良いもの」が「万人にとっての良いもの」になり得ることはないのです。また、モーツァルトはお腹の赤ちゃんの為に曲を作ったわけではないですし、ハチャトゥリアンも運動会の徒競走で使われるなんて夢々思っていなかったでしょう。

それらは全て、後世になって私たちが文化的に創り出したイメージであり、そのイメージを多数が共有することが、真に音楽に触れるという経験なのだと思います。ふと耳で聞いただけでは、すれ違った人の顔ほどの認識にしかならないでしょう。それを、もう一歩踏み込んで、挨拶と名刺交換をするくらいの聴き方をして初めて、「この曲わかる!」という感覚を憶えるのだと思います。そして、そのイメージを個々人が固有のものにしていく過程こそが、音楽の醍醐味なのです。

また、その創り出されたイメージと、曲のイメージが離れれば離れるほど、音楽が面白くなったりします。要は、純粋に音だけを聞かせるということは、幼年期のお子さんには少しハードだということを理解して頂きたいのです。

ベートーヴェンの著名な交響曲を例にします。

第三番「英雄」二楽章の葬送行進曲は「ナポレオンという人のお葬式なんだよ。」

第五番「運命」一楽章冒頭は「運命の扉を叩いてる音なんだって。」

第六番「田園」二楽章の終結部では「この音は夜鶯とうずらとカッコウの鳴き声なんだって。」

このように音楽〝+α〟があることで、お子さんの記憶への浸透が深化します。また、「ナポレオンって誰?」、「夜鶯ってどんな鳥?」という新たな疑問が生まれたら、私たちはしめたものです。他分野の学問への発展性、これもまた、音楽が古くから文化人の素養(たしなみ)=リベラル・アーツとして求められて来た由縁でしょう。

私は、日頃のお弟子さんへのレッスンは元より、市のワークショップや保育園での芸術鑑賞教室、また大人向けの演奏会などでも、この〝+α作業〟を必ず心掛けております。音楽史や音楽美学などと呼ばれる音以外の音楽うんちくを、音楽を解した者同士で難しく語ることは簡単です。

しかし、まだ耳も頭も無垢な子どもに、いかにわかりやすくイメージを付与できるか、それこそ職業音楽家の腕の見せ所だと思います。

〝音楽教育についてお母さんたちへのメッセージ〟

ここまでお読み頂くと、実は義務教育課程の音楽というのは、非常に貴重だということに気付かれると思います。音楽の授業は、家柄や個人の好みなどに関係なく、全員が等しく世界中の音楽に触れられる一生に一度の機会だからです。バッハやジョンレノンは親さんでも与えられるかも知ませんが、雅楽やケチャやガムランなどはどうでしょう。ピアノを弾いて、指揮を振って、歌をうたって、曲を聴かせて、作らせて…学校の音楽の先生って凄いなぁと、私はつくづく思います。

「音楽の教科書」には、私たちの知らない世界が、沢山詰まっています。一度、お子さんのランドセルから手に取ってご覧になってください。きっと、しばらく飽きずに眺めることが出来るでしょう。そして、気になる曲やわからない曲があったら、是非お子さんに「これってどういう音楽?」とひと言添えてあげてください。きっと、ミニ先生に変身した我が子が、習いたての知識を得意気に披露してくれることでしょう。親さんが関心を持つこと、これは、お子さんの知識が定着するのに、何より有効だと思います。是非、親さんも一緒になってお子さんのリアルタイムの音楽を楽しんでください。

一人の人生において、どんな音楽に触れ、どんな師と出会い、そこから何を感じ、何を産むかは、誰にも予想できず、十人十色です。私たち周囲の大人の役割は、子どもの歩む道すがらに、沢山のきっかけを予備しておくことだと思います。決して親さんの趣味の強制やかつての自分の夢を背負わせることはなさらないでください。あくまで、選ぶのは本人です。むしろ、趣味は家族全員ばらばらくらいが丁度良いのです。

子守唄でもコンサートでもなんでも構いません。出来るだけホンモノに近い音楽に触れる機会を与えてあげてください。子どもたちはホンモノが好きですし、親さんから特別な機会を与えられることで、より深く印象に残ると思います。

私は決して裕福とは言えない家庭で育ちましたが、6歳の時に「琴をやりたい」と言ったら翌週には母親が師匠を見つけてくれ、12歳ではユースオケの演奏旅行でベルリンのオペラハウスでヴァイオリンを弾く機会にも恵まれました。スラムダンク全盛期、ヴァイオリンを辞めてバスケに走った兄からは「お前ばっかり…」と、妬まれました。今でも私は、20年前に母がローンを組んで買ってくれた兄のお譲りを手入れし、大切に使っております。

最後になりましたが、皆様とお子さまの人生に、沢山の素敵な音楽が落っこちていることを、心からお祈り申し上げます。

千葉 あや

千葉 あや
1985 年、福島市生まれ。9 歳よりオーケストラに入団し、ヴァイオリン・ヴィオラを担当。福島大学附属中学校、福島県立橘高等学校を卒業後、福島市内の小学校にて特別支援教育に従事。現在、福島大学大学院人間発達文化研究科地域文化創造専攻芸術文化領域(作曲)に在籍。千葉ヴィオラ・ヴァイオリン教室主宰、福島市子どもの夢を育む施設こむこむワークショップ「目指せ!バイオリニスト」講師、オーケストラ・フィルジッヒ首席ヴィオラ奏者。


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